異彩の画家・若冲(4)果蔬涅槃図、菊花図 墨のにじみ自在に操る

媒体掲載記事

2019年02月07日

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異彩の画家・若冲(4)果蔬涅槃図、菊花図 墨のにじみ自在に操る

「果蔬涅槃図」 紙本墨画 一幅 京都国立博物館蔵

 「涅槃図(ねはんず)」とは釈迦(しゃか)の入滅(亡くなること)の様子を描いた図で、仏教では伝統的に描かれてきた。釈迦の周りに弟子や無数の生き物が集まっている構図が一般的で、入滅の悲しみの中に荘厳さがあり、命の終焉(しゅうえん)と仏教の教えの永劫(えいごう)性が表現されている。

 江戸中期に活躍した画家、伊藤若冲(じゃくちゅう)(1716~1800年)はどう描いたか。なんと、「果蔬(かそ)涅槃図」(京都国立博物館蔵)で登場人物を全て野菜や果物に例えて描いた。果蔬とは果物や野菜を意味する。

 まず目を引くのは画面中央に寝そべる二股の大根。これが釈迦で、弟子や生き物の代わりにさまざまな野菜や果物が取り囲む。後ろには沙羅双樹としてトウモロコシがそびえる。なんともユニークで味のある作品だ。京都の有力な青物問屋の主人だった若冲ならではの発想といえる。

 描かれた果物や野菜は60種類以上とバラエティーに富んでいる。聖護院カブなど京野菜もあるが、多くはカボチャなど外国から渡来した品種だ。この果蔬涅槃図は長年、若冲が面白おかしく描いた作品とされてきた。だが、近年は、肉親の供養や家業の繁栄を願って描かれたとされる解釈が主流となっている。

「菊花図」 紙本墨画 一幅 デンバー美術館蔵

 県立美術館の伊藤匡学芸員は「果蔬涅槃図のような手法は江戸時代に多く描かれた。それでも若冲のユーモアは際立っている。現代人も驚くような想像力を感じ取ってほしい」と語る。

 若冲は丹念で綿密に描かれた彩色画と並んで、水墨画でも新境地をひらいている。水墨画でみられる独特の世界は、若冲の卓越した技量や独自の技法によるところが大きい。その一つが「筋目描き」の技法で、「菊花図(きっかず)」(米・デンバー美術館蔵)の菊の花びらにも使われている。

 筋目描きは、にじみやすい紙の上に置いた淡い墨が混ざり合わず、墨の境界に白い筋目が残る性質を利用した技。墨のにじみという偶然に頼る手法だが、若冲は巧みにコントロールし、花びらや羽根などの重なりを描いて本物さながらの柔らかさを表現した。菊花図の画面上部の花びらの筋目描きは、若冲の他作品と比べても際立って細かく、妙技とされる。

 「筋目描きは非常に手間が掛かる描き方。若冲は高齢になっても駆使しており、作品制作への貪欲さが伝わる」と伊藤氏。今回の展覧会ではこのほかにも、若冲の秀逸な技法で描かれた作品を間近に見ることができる。伊藤氏は「若冲作品は細密描写、大胆な構図、自由自在な筆遣い、画材や新技術へのこだわり、想像力とユーモアが魅力。若冲作品の世界をぜひ楽しんでほしい」と話した。


青物問屋 各地の野菜などを集荷して小売り(八百屋)に卸した。伊藤若冲は京都・錦小路にあった有力な青物問屋「枡屋」に生まれた。父の死去に伴い、若くして4代目を襲名したが、40歳で隠居している。

(2019年1月28日 福島民友新聞掲載)

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