私の中の若冲(3)対象を超越したイメージ 鴻崎正武さん

媒体掲載記事

2019年02月27日

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私の中の若冲(3)対象を超越したイメージ 鴻崎正武さん

 

 細部まで描き込まれた幻想的な絵画で知られる福島市出身の画家、鴻崎正武(こうざきまさたけ)さん(東北芸術工科大准教授)は、伊藤若冲(じゃくちゅう)について「生き物や自然をそのまま描くのではなく、対象のイメージをいかに超えていけるかにこだわった。超越したイメージを描きたいと常に考えていたのではないか」と、作品から垣間見える画家のこだわりを指摘する。

◆「美術の枠に収まらない宇宙的な視点」

―最初に若冲に触れたのは。

 「東京芸大の4年生で卒業制作を終えた頃、ちょうど京都国立博物館で若冲の没後200年展が開催されていた。思い立って友達と向かった。狩野(かのう)派(は)など伝統的な様式を重んじた上で、西洋的な魅力がある和洋折衷のイメージ、高価な顔料を惜しみなく使うなど緻密で工芸的な雰囲気、執拗(しつよう)に迫る密度が作品から感じられ、『わびさび』を大事にする日本の文化とはひと味違う作品に圧倒された」

―鴻崎さんは主に西洋絵画を学んだが。

 「(『快楽の園』など幻想的な作品で知られる15~16世紀のフランドルの画家)ヒエロニムス・ボスは(全ての物に霊や魂が宿っていると考える)アニミズム的な宗教画を残しており、自分は大きく影響を受けているが、若冲からもアニミズム的な視点が感じられる。とてもシュールだが、自分ならではのリアリティーを描いている画家だ」

―異質の日本画家ということか。

 「日本画には、狩野派の長く受け継がれてきた形式があり、風神雷神や花鳥風月を描く際の『形』がある。そうした系譜が存在する中で、若冲や葛飾北斎のようなとっぴな個性が生まれてきた歴史もある。日本画の文脈を踏まえながら、関節を脱臼させるように少し違った視点を組み込むことで新しいものに見せていく。現代アートでは当たり前に行われていることだが、若冲にはそれが自然にできたのかもしれない」

―見てほしい若冲作品は。

「果蔬涅槃図」紙本墨画 一幅 京都国立博物館蔵

 「『果蔬涅槃図(かそねはんず)』は何ともユーモラスだ。野菜が生き生きとしていて、若冲なりのデフォルメの仕方もユニーク。植物など対象をじっくり観察するなど形に対する執拗な執着心、やり過ぎと言えるほど追求していく姿勢が、若冲を他の日本画家とは一線を画す存在にしている」

―視点の面白さとは。

 「対象のイメージをいかに超えられるかという絵画表現のチャレンジに意味を見いだしていたのではないか。イメージに徹底的にこだわる中で、キノコを描いていてもキノコを超えた何かになってしまうような究極のリアリズムだ。美術の枠に収まらない宇宙的な視点と言える」

―鴻崎さんの作品にはパソコンを使うものもあるが、升目描きなど、若冲にもデジタルアートに通じるものを感じる。

 「若冲は、もっと技法やイメージを超えていきたい、新しいものを作りたいという思いが強かったのではないか。今でこそ映像作品や(空間やオブジェをひとつの作品として表現する)インスタレーションなど表現手法は多彩にあるが、若冲の作品には人間が思い付く新奇性の神髄のようなものが詰まっている」


 こうざき・まさたけ 福島市出身。東京芸大大学院絵画科を経て、東北芸術工科大(山形市)の芸術学部洋画コース准教授。国内外で展示会多数。第13回青木繁記念大賞展大賞。46歳。

 「果蔬涅槃図(かそねはんず)」
釈迦(しゃか)の入滅(亡くなること)の様子が描かれる「涅槃図」を、若冲が野菜や果物に見立てて描いた「果蔬涅槃図」。中央の二股の大根が釈迦を表している

(2019年2月18日 福島民友新聞掲載)

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